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祝島訪問記~奇跡の海と原発計画~

2011年10月05日


祝島(いわいしま)は、山口県南部、瀬戸内海に浮かぶ人口500人ほどのハート型をした小さな島で、古くから漁と農を中心に、環境と調和した生活が営まれてきました。

しかし、1982年、この美しい島の対岸4kmに原子力発電所の建設計画が持ち上がり、以来30年近く、建設を進める中国電力と祝島の島民とのせめぎ合いが続いています。

福島原発の事故を契機に注目が高まっている祝島の今を取材しました。

(事務局・高崎 渉)

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希少生物の宝庫

上関原発建設予定地の周辺地域には、世界に5千羽と言われる「カンムリウミスズメ」や小型のクジラ「スナメリ」など多数の天然記念物をはじめ、ここでしか見られない鳥類や魚類も多く、貴重な生態系が残っています。

高度経済成長期の工業化により瀬戸内海の自然の多くが破壊されたことから、上関一帯は「瀬戸内海最後の楽園」と呼ばれています。

一流の田舎を目指そう

島では農業と漁業によって食の自給自足が達成されており、ほぼ全ての作物が無農薬で栽培されています。

また、近年は「一流の田舎を目指そう」という呼びかけのもと、島で出た残飯や野菜くず、痛んで出荷できない特産品のビワのなどを集めて豚の餌にするという試みも始まり成功しています。

海に面した気持ちのいい高台の飼育場で元気に走り回り、無農薬の餌で大切に育てられた豚たちは、通常の3倍の価格で取引きされています。

原発建設計画に揺れた上関町

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1982年に原発計画が浮上して以来、中国電力は補償金や原発交付金によって祝島以外の地域の建設合意を次々に取りつけ、反対するのは祝島のみとなりました。

そこで中国電力は、建設に合意した祝島以外の7漁協へ、補償金125億5千万円の半額だけを振込み、残りは「祝島が合意したら払う」として地域住民の対立を意図的に発生させました。

これによって壊された家族や親戚関係も少なくありません。

それでも祝島の島民が補償金を拒否し、30年近くも一貫して原発建設に反対し続けてこれたのは、彼らの生活の全てが海の恵みによってもたらされていることと、原発での作業経験のある数人の島民が、原発の危険性を訴え続けたことが大きいと言われています。

いのちの海を守る

祝島の対岸にある原発の建設予定地「田ノ浦海岸」を訪れた時のこと、不思議な位置に立つ杭を前に、祝島に住むNさんがその杭にまつわる話を聞かせてくれました。

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「半年ほど前に、中国電力が作業員と大勢の屈強な警備員を連れて、建設場所を区切るための柵を作ろうとしたんだよ。今まさにハンマーを振り下ろしている杭に、祝島のおばあが自分の手を置いた。そのままでは作業ができないので警備員が引き離そうとしたけど、おばあがいつまでも杭にしがみついて抵抗するから、その日の作業は止まった。こんな現場だと聞かされずに連れて来られた作業員もいて、中には泣いている人もいた。」

祝島では、原発建設の阻止行動に関しての壮絶な話が尽きません。

2月の凍える海の中で作業船のロープに8時間しがみついて建設作業を食い止めた漁師の奥さんの話や、600人を動員した建設の強行にたったの30人で立ち向かい阻止した話など。

30年近くも原発の建設を食い止めてこれたのは、祝島のおじいとおばあの命懸けの行動によるものであることがわかります。そして、このような事態は上関原発に特有のものではなく、原発建設時に全国で起こってきたことなのです。

原発は、ひとたび事故を起こせば世界中に被害が広がりますが、建設や運転の段階でも多くの人や自然環境に悲劇をもたらします。

「あたりまえ」なものの尊さ

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田舎を訪れた都会の人が、豊かな自然を前に「いいところですね」と言うのを聞いて、地元の人が「これがいいのか」と自覚することがよくあるそうです。

田舎にとっての「あたりまえ」がいかに貴重かという自覚を住人が持っているかが、開発を食い止める大きな要素であり、祝島の人々が豊かな海の尊さを十分に理解していたからこそ、長きにわたって原発の建設を瀬戸際で止めてこれたと言えるでしょう。

上関に限らず、我々が自然の尊さを再認識することが、脱原発を進める大きな力になるのではないでしょうか。

現在、上関原発の建設計画は、福島の原発事故に伴う山口県知事の要請によって一時的に中断されています。

今回の訪問で、原発の建設を止めるのがいかに大変なことなのかが改めてわかりました。

一方で、祝島の島民は、人々の意思と結束力があれば「原発建設は止められる」ことを30年かけて証明しました。

今、島は高齢化が進み、65歳以上が7割を占めます。彼らが必死で守ってきたものを、今度は私たち一人ひとりが受け継ぐ番ではないでしょうか。

(高崎 渉)

◆祝島島民の会:http://shimabito.net/
 (建設阻止行動の資金カンパと署名を募っています)


◆祝島ホームページ:http://www.iwaishima.jp/